訪問看護でいちばん重い場面が看取りです。医療的な手技よりも、ご家族に何を、いつ伝えるかで結果が変わります。
この記事では、時期ごとに家族へ伝えることと、看護師自身が抱え込まないための仕組みをまとめます。
まず前提:家で看取ると決めた後も、迷い続けます
「家で最期まで」と決めたご家族でも、状態が変わるたびに揺れます。その揺れは失敗ではありません。
訪問看護師の役割は、決断を守らせることではなく、いつでも選び直せる状態を保つことです。
- 「気持ちが変わってもいい」と最初に伝えておく
- 救急車を呼ぶ選択肢を否定しない
- 入院に切り替えた場合の道筋も、あらかじめ主治医と共有しておく
3つ目が実務上いちばん大事です。「もう無理」となった夜に、はじめて考え始めるのでは間に合いません。
時期ごとに伝えること
| 時期 | 伝えること |
|---|---|
| まだ話せる時期 | これから起こる変化の全体像。「食べられなくなるのは自然な経過」だということ |
| 食事量が落ちてきたとき | 点滴で楽になるとは限らないこと。無理に食べさせなくてよいこと |
| 眠っている時間が増えたとき | 意識が遠のくのは苦しさとは違うこと。耳は最後まで聞こえていると言われること |
| 呼吸が変わってきたとき | 下顎呼吸や喘鳴が起こり得ること。本人が苦しんでいるとは限らないこと |
| 亡くなられた直後 | あわてて救急車を呼ばなくてよいこと。誰に連絡するか |
最後の行を必ず先に伝えてください。「息をしていない」と気づいた瞬間に119番してしまい、在宅での看取りが警察対応になってしまう——これは事前の説明で防げます。
「そのときどうするか」を紙に残す
口頭で説明しても、その場面では思い出せません。1枚の紙にして、目につくところに貼っておいてください。
- いつもと違うと思ったら、まず訪問看護ステーションへ電話(番号を大きく)
- 呼吸が止まったように見えても、あわてなくて大丈夫
- 連絡する順番(訪問看護 → 主治医 → 親族)
- 夜間・休日の連絡先
- かかりつけ医の名前と連絡先
1番の電話番号を大きく書いてください。動揺している人は、小さい字を読めません。
やってはいけないこと
- 残された時間を断定する … 「あと1週間です」とは言わない。幅で伝える
- 「もう何もできません」と言う … できることは最後まであります
- 家族の判断を評価する … 「入院させたほうが」「家にいたほうが」を看護師が決めない
- 亡くなった後の家族に説明を詰め込む … その場では最小限に
1つ目が難しいところです。ご家族は具体的な日数を知りたがりますが、外れたときの落胆が大きい。「日の単位で変わっていく時期に入っています」といった伝え方のほうが、結果的に備えられます。
ご家族の負担を分ける
在宅での看取りが崩れるのは、医療の問題ではなく介護する人が倒れるからです。
| 見えたら動く合図 | 何を提案するか |
|---|---|
| 主介護者が眠れていない | 訪問回数の見直し、夜間対応の説明、レスパイトの検討 |
| 1人だけが抱えている | 他の親族の役割分担。「買い物だけ」でも役割になります |
| 食事や入浴ができていない | ケアマネジャーへ連絡してサービスの追加を相談 |
| 「私のせいで」と言い始めた | いちばん危険なサイン。その場で否定せず、事業所とケアマネへ共有 |
最後の行を見逃さないでください。看取りの後まで残ります。
看護師自身を守る
看取りが続くと、経験のある看護師でも消耗します。これは個人の弱さではありません。
- 事業所内で振り返る場があるか … 反省会ではなく、話す場
- 1人で最期の訪問に入らない選択 … 同行を頼めるか
- 亡くなった後の記録や連絡を分担できるか
- 次の訪問の間隔 … 直後に別の利用者さんへ向かう組み方になっていないか
4つ目は管理の問題です。看取りの直後に5分で切り替えろ、というスケジュールを組んでいる事業所は、いずれ人が続かなくなります。
記録に残すこと
- 説明した内容と、誰に説明したか
- ご家族の反応と、迷いの内容
- 主治医への報告と、指示の内容
- 時刻 … 訪問時刻、連絡した時刻
- ターミナル期の対応として算定するなら、その根拠が記録から読み取れるか
5番は事業所として必ず確認してください。算定の可否は記録に支えられます。
よくある質問
Q. 死亡確認は看護師ができますか
死亡の判定(死亡診断)は医師が行います。看護師は状態を確認して医師へ連絡します。医師が到着するまでの間にご家族が不安にならないよう、あらかじめ流れを説明しておくことが大切です。
Q. ご家族に泣かれたとき、どうすればいいですか
言葉で埋めなくて大丈夫です。そばにいる、お茶を出す、手を止める。それだけで十分に伝わります。
Q. 自分が泣いてしまいました
問題ありません。ただし、ご家族より先に崩れないこと。訪問を終えて、車の中で。それでつらければ、事業所に話してください。
Q. 看取りの経験がなくて怖いです
最初は誰でもそうです。同行訪問から入れる事業所を選んでください。いきなり1人で入らせる事業所は、教育の仕組みがありません。
まとめ
- 「気持ちが変わってもいい」を最初に伝える。入院に切り替える道筋も先に共有しておく
- 食べられない・眠りが増える・呼吸が変わる——自然な経過だと事前に説明する
- 亡くなった直後にあわてて救急車を呼ばなくてよいことを、必ず先に伝える
- 連絡先と手順は1枚の紙にして、大きな字で
- 残された時間は断定せず幅で伝える
- 「私のせいで」は最も危険なサイン。事業所とケアマネへ共有
- 看護師自身も1人で抱えない。振り返る場と、訪問の組み方を事業所で見直す
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看取りに関われるかどうかは、本人の覚悟よりも事業所の体制で決まります。同行訪問から入れるか、振り返る場があるか、看取りの直後に休みを入れられるか——ここが整っていない事業所では、経験のある看護師でも数年で消耗します。求人票からは読み取れない部分なので、「看取りのとき、何人で、どう回していますか」を面談で確認してもらうと、その事業所の実態がよく見えます。
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