訪問看護に移って最初につまずくのが記録です。病院と違い、その場に誰もいません。書いたものだけが残ります。
この記事では、SOAPの型を訪問看護の場面に落とし込み、そのまま使えるNG例・OK例で整理します。
記録は誰のために書くのか
| 読む人 | その人が知りたいこと |
|---|---|
| 次に訪問する看護師 | 前回どうだったか。何に注意して入るか |
| 主治医 | 指示に対して何が起きているか |
| ケアマネジャー | 生活が回っているか。他サービスとの調整が要るか |
| 実地指導・監査 | 指示書・計画書と実施内容が整合しているか |
| ご家族・ご本人 | 開示を求められる場合があります |
最後の行を意識してください。記録は開示の対象になり得ます。憶測や感情的な表現を書かないのは、そのためです。
SOAPの型を訪問看護に落とすと
| 書くこと | 訪問看護での例 | |
|---|---|---|
| S(主観) | 本人・家族が言ったことをそのまま | 「夜中に2回起きてトイレに行った」 |
| O(客観) | 観察・測定した事実 | 体温36.8℃、下腿に圧痕性浮腫あり、歩行時にふらつき |
| A(評価) | SとOから何が起きていると考えるか | 利尿薬の効きと水分摂取のバランスが崩れている可能性 |
| P(計画) | 次に誰が何をするか | 主治医へ報告、明日の訪問で体重測定、家族へ飲水量の記録を依頼 |
いちばん抜けるのはAです。SとOだけ書いて終わると、読んだ人が同じ判断を一からやり直すことになります。
NG例とOK例
①「特変なし」で終わる
| NG | OK |
|---|---|
| 特変なし。清拭施行。 | S「調子はいつも通り」 O 体温36.5℃、血圧128/76、SpO2 97%、食事摂取量は8割。仙骨部の発赤なし。 A 前回の発赤は消退。体位変換の間隔は現状で維持可 P 次回も仙骨部を確認。家族へクッションの位置を再説明済み |
「特変なし」は、見ていないのか、見て問題なかったのかが区別できません。何を見て問題なしと判断したかを書いてください。
② 憶測を書いてしまう
| NG | OK |
|---|---|
| 家族が介護に非協力的で、本人が放置されている様子。 | O 前回の訪問時に依頼した水分記録は未記入。居室のペットボトル2本が未開栓。 S 長男「日中は仕事でほとんど家にいない」 A 日中の見守りが手薄。水分摂取量の把握が困難 P ケアマネへ情報提供。日中のサービス追加を検討依頼 |
評価と非難は違います。事実を書いて、そこから何が必要かにつなげてください。
③ 実施したケアだけ並べる
| NG | OK |
|---|---|
| バイタル測定、創部処置、服薬確認。 | O 右下腿創部 3×2cm、滲出液は淡黄色で少量、周囲の発赤縮小。指示どおり洗浄後に被覆材交換。 A 前週より縮小傾向。現在の処置内容を継続でよい P 次回計測して比較。増悪時は主治医へ報告 |
「やったこと」ではなく「どうだったか」が要ります。創部は必ずサイズと性状を数字と言葉で残してください。
④ 指示との関係が見えない
| NG | OK |
|---|---|
| 本人の希望で入浴介助を実施。 | O 訪問看護指示書の内容に基づき、全身状態を確認のうえ入浴介助を実施。実施前 体温36.6℃、血圧132/80。実施中の気分不良なし。 A 入浴可の状態を満たしていた P 発熱時は清拭に切り替える旨を家族へ説明 |
「希望があったから」だけでは根拠になりません。指示と、実施前の判断を残してください。
記録の種類を整理しておく
| 中身 | |
|---|---|
| 訪問看護記録書Ⅰ | 利用者の基本情報。初回に作成し、変化があれば更新 |
| 訪問看護記録書Ⅱ | 訪問ごとの記録。日々書くのはこちら |
| 訪問看護計画書 | 目標と計画。主治医へ提出 |
| 訪問看護報告書 | 実施状況の報告。主治医へ提出 |
加算を算定している場合は、その根拠が記録から読み取れることが必要です。「緊急で訪問した」「ターミナル期の対応をした」——それが記録上どこに書かれているかを、算定の前に確認してください。
時間を短くする5つ
- 訪問中に書く … 記憶は帰り道で薄れます。数値だけでもその場で
- テンプレートを持つ … 疾患別に「必ず見る項目」を決めておく
- Sは一言でいい … 全部を書き取らず、いちばん状態を表す発言を1つ
- Aは1文で言い切る … 迷ったら「前回と比べてどうか」だけ書く
- Pは主語を書く … 「誰が」やるのかが抜けると、誰もやりません
5番が効きます。「情報提供する」ではなく「担当看護師がケアマネへ情報提供する」。次に読む人が動けます。
やってはいけないこと
- 後から書き換える(消す・上書きする) … 訂正は訂正と分かる形で残します
- 他の利用者の情報を書き込む
- 断定できない診断名を書く … 「〜の疑いを念頭に観察」と評価の形で
- 感情的な表現、人物評
- 実施していないことを書く
1番目は特に重要です。訂正の履歴が残らない記録は、記録として弱くなります。
よくある質問
Q. 電子カルテと紙で書き方は変わりますか
考え方は同じです。ただし電子はコピー&ペーストで前回の記録が残ってしまう事故が起きます。日付と数値は必ず見直してください。
Q. Aが思いつきません
「前回と比べてどうか」から書いてください。よくなった・変わらない・悪くなった。それだけでも評価になります。
Q. 記録はどれくらい保存しますか
保存期間は法令と自治体の指導で定められています。事業所の運営規程を確認してください。
Q. 書く時間が業務時間に入りません
記録は業務です。いつ・どこで書くかを事業所として決めているかが、その事業所の姿勢を表します。
まとめ
- 記録は次の看護師・主治医・ケアマネ・監査が読む。開示の対象にもなり得る
- Sは発言のまま、Oは事実、Aは「前回と比べてどうか」、Pは主語つき
- 「特変なし」は書かない。何を見て問題なしと判断したかを書く
- 憶測・人物評を書かない。事実から必要な対応へつなぐ
- 指示書との整合と加算の根拠が記録から読み取れるようにする
- 訂正は訂正と分かる形で残す
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記録にかかる時間は、事業所の仕組みでまったく変わります。訪問中に入力できる端末があるか、テンプレートが整備されているか、記録の時間が業務として組まれているか——ここが決まっていない事業所では、そのしわ寄せが看護師個人の残業になります。求人票からは読み取れない部分なので、「記録はいつ・どこで書いていますか」を面談で確認してもらうと、入ってからのギャップが減ります。
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