訪問看護の感染対策は、病院とはまったく別のものです。手洗い場が使えるとは限らず、物品を置く清潔な場所もありません。
そして訪問看護には、病院にはないリスクがあります。看護師が家から家へ持ち運んでしまうことです。この記事では、持ち込まない・持ち出さないを軸に、実際の手順をまとめます。
基本の考え方
| 病院 | 訪問看護 | |
|---|---|---|
| 環境 | 整備されている | その家ごとに違う |
| 手洗い | いつでもできる | 使えないことがある |
| 物品 | 院内で完結 | 持ち込み・持ち出しがある |
| リスク | 院内感染 | 家から家への持ち運び |
| 判断 | その場に他の人がいる | 1人で決める |
いちばん大きい違いは最後の行です。迷ったときに相談できません。だからこそ、事前に手順を決めておくことが対策そのものになります。
標準予防策(スタンダードプリコーション)
出発点はここです。感染症の有無にかかわらず、すべての利用者さんに対して同じ対応をとるという考え方です。
血液、体液、分泌物(汗を除く)、排泄物、傷のある皮膚、粘膜——これらは感染の可能性があるものとして扱います。
「この方は大丈夫」という判断をしないのが標準予防策です。診断がついていない感染症があり得るからです。
訪問カバンの中身と置き方
- カバンは床に直接置かない … 新聞紙やビニールシートを敷く。これを毎回やる
- 清潔・不潔をカバンの中で分ける … 使用済みを入れる袋を必ず別に
- 手指消毒剤はカバンの外ポケットに … 中を開けてから探すのでは遅い
- ディスポ手袋は多めに … 足りなくなって使い回すのがいちばん危険
- 使用済みの物品は密閉して持ち出す … 利用者宅のゴミに混ぜてよいかは事前に確認
1番を軽く見ないでください。カバンの底は、次の家の食卓の横に置かれます。
手指衛生のタイミング
手洗い場が使えるとは限らないので、擦式アルコール製剤が中心になります。
| タイミング | 方法 |
|---|---|
| 玄関に入る前 | アルコール |
| ケアの前 | アルコール(可能なら流水) |
| 手袋を外した直後 | アルコール。手袋をしていたから不要、ではありません |
| 体液に触れた後 | 流水と石けん。可能な限り |
| 玄関を出た直後 | アルコール。次の家に持ち出さない |
「手袋を外した直後」が最も抜けます。手袋には目に見えない穴があり、外すときに手が汚染されます。
また、ノロウイルスなどアルコールが効きにくい病原体があります。嘔吐・下痢がある方の訪問では、流水と石けんによる手洗いを優先してください。
使い分けの目安
| 場面 | 使うもの |
|---|---|
| 血液・体液・排泄物に触れる可能性 | ディスポ手袋 |
| 飛散の可能性がある処置 | 手袋+エプロン(+必要に応じて目の保護) |
| 飛沫感染のおそれ | マスク |
| おむつ交換・陰部洗浄 | 手袋+エプロン。終わったらその場で外す |
| 創部処置 | 手袋。清潔操作が必要なら滅菌手袋 |
エプロンを着けたまま次の部屋へ移動しないでください。訪問先では動線が短いぶん、外し忘れが起きやすくなります。
ご家族への伝え方
感染対策の話は、伝え方を間違えると「汚いと思われている」と受け取られます。
| NG | OK |
|---|---|
| 「衛生的に問題があるので」 | 「私が他のお宅から持ち込まないように、毎回こうさせていただいています」 |
| 「手袋をしないと危ないので」 | 「お互いを守るための決まりになっています」 |
主語を自分にしてください。「私が持ち込まないため」と言えば、否定に聞こえません。
感染症が疑われるとき
- 訪問前に電話で確認する … 発熱、嘔吐、下痢の有無
- 訪問順を変える … 可能ならその日の最後に回す
- 持ち込む物品を最小限にする
- 事業所へ連絡し、判断を仰ぐ … 1人で決めない
- 主治医・ケアマネジャーへ共有する … 他のサービスも入っています
2番が訪問看護ならではの対策です。順番を変えるだけで、他の利用者さんへのリスクが下がります。
看護師自身を守る
- 体調が悪い日に訪問しない … 訪問看護師が感染源になります
- 針刺し事故が起きたときの手順を、事業所として決めておく
- 予防接種の扱いを事業所に確認する
- 1人で判断できないときに連絡できる相手が決まっているか
1番目を言い出せるかどうかが、その事業所の姿勢を表します。「代わりがいないから」で出勤させる事業所は、感染対策の前提が崩れています。
よくある質問
Q. 利用者宅の手洗い場を使っていいですか
事前に許可を得てください。「使わせていただいてよいですか」と最初の訪問で聞いておくと、毎回聞かずに済みます。
Q. 使用済みの物品はどこに捨てますか
持ち帰りが原則とする事業所が多いです。医療廃棄物の扱いは事業所の手順に従ってください。利用者宅のゴミに混ぜてよいかは、事前に決めておく事柄です。
Q. 車の中はどうしていますか
清潔なものと使用済みを分けて積んでください。後部座席にそのまま置くと、次の訪問で取り違えます。
Q. マニュアルがない事業所です
感染対策の指針や研修は、運営基準として求められる事項です。ないこと自体が問題なので、管理者に確認してください。
まとめ
- 訪問看護の最大のリスクは家から家への持ち運び
- 出発点は標準予防策。「この方は大丈夫」という判断をしない
- カバンを床に直接置かない。清潔・不潔を分ける
- 手指衛生で最も抜けるのは手袋を外した直後
- 嘔吐・下痢がある方には流水と石けんを優先
- 感染症が疑われる訪問はその日の最後に回し、事業所へ連絡
- ご家族には「私が持ち込まないため」と主語を自分にして伝える
PR
感染対策は、個人の丁寧さではなく事業所の仕組みで決まります。物品が十分に支給されるか、訪問順を変える判断を管理者がしてくれるか、体調不良のときに休めるか——ここが整っていない事業所では、看護師個人が無理を吸収することになります。求人票では分からない部分なので、「感染症が疑われる利用者さんがいるとき、訪問順や体制をどう調整していますか」を面談で確認してもらうと、その事業所の実態が見えます。
介護・福祉の転職サイト『介護JJ』
![]()
コメント
コメントを投稿